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津波が起きる地震(津波と地震の関係)

津波と地震
はじめに
 震度4を超える揺れの大きい地震が起きた際に「津波は?」と、メディアの情報をすぐに確認する人は多いと思う。
 しかし地震の揺れが大きかったにも関わらず、「津波の恐れはありません。」と、津波が起きないのはもちろん良いことなのだが、ある種の肩透かしのような経験をした人も多くいるだろう。
 そこでここでは津波の発生する地震と、そうでない地震には、どのような違いがあるのかといった点について解説していく。
①津波の発生源は「揺れ」ではない。
 地震に対して恐怖を感じるのは大きく揺れるからである。そして地震の規模に応じて、揺れも大きくなる。そのため私たちは地震と大きく関係する要素は「揺れ」と認識しており、それは決して間違ってはいない。しかし津波という観点に絞って地震を見ると、「揺れ」という要素は大きく影響しない。
 実は津波の発生源というのは下図のように地震により生じた海底の地盤変動であり、これが海面の水位を上昇させ伝播し津波となるのである。
 そのため、まず第一に「揺れが大きい=津波が発生する。」という認識は誤りとなる。
津波の発生メカニズム
※国土交通省HPより引用 
②震源の場所と深さ、断層の上縁
 津波は海域で発生した地震により、地盤変動が生じ、それが水位の上昇となり伝播してくるものである。そのため震源が陸域の場合は、当然津波は発生しない。これは一般的な感覚としても、分かり易いと感じる。
 では海域で起きた地震は、必ず津波を発生させるかというとそうではない。①で述べたように津波の発生源は地盤変動なのだが、この地盤変動を生じさせるのに重要な要素が震源の深さと断層の上縁である。
 地震による地殻変動は断層の上縁が地表面に近い場合に大きくなる。下図に示すように断層の上縁とは、その字の通り断層の上側の縁で、一般的に震源と呼ばれる位置は断層の中央である。上縁がどの程度の深さだったかは、断層の幅や傾斜角が関係してくるため詳しく調べないとわからないことが多い。ただ一般的に値として断層幅は、過去の大地震の研究から広いものでも50~100km程度のため、断層の傾斜にもよるが震源の深さという観点では50kmより深い地震においては津波はほとんど生じないと考えられる。
断層パラメータ
③断層のタイプ
 地震は断層のズレにより生じることは広く知られているが、この断層のズレはその形によってタイプが分類される。
 下図に示すようにズレが生じる方向により正断層、逆断層、横断層というタイプに分類される。これまでに述べたように、地盤変動が生じることが、津波を発生することにつながるため、横断層のタイプでは津波があまり生じないことは、想像がつくかと思う。
 また正断層と逆断層についても、津波の規模に差があり、一般的に逆断層の場合は地盤変動が大きく、津波も大きくなることが多い。
断層タイプ
※国土地理院HPより引用 
④近年の津波が生じた地震での検証
 では①~③を踏まえて、気象庁が震源データベースとして公表している1923年以降の地震で津波が生じているものを整理してみた。
 これらを見ると、震源が海域であることや震源深さが50kmより浅いこと、断層タイプが逆断層の場合に被害が大きいことという3点について、概ね合致していることが分かる。
 
発生
年月日
震央地名
地震名
最大
震度
津波 震央
位置
震源
深さ
断層
タイプ
人的
被害
物的
被害
1 2016年
(平成28年)
11月22日
福島県沖 7.4 5弱 144
cm
外洋 25
km
正断層 負 21 住家一部破損 9棟
【平成29年11月9日現在】
2 2014年
(平成26年)
07月12日
福島県沖 7 17
cm
外洋 33
km
正断層 負 1 なし
3 2013年
(平成25年)
10月26日
福島県沖 7.1 36
cm
外洋 56
km
正断層 負 1 なし
【平成25年10月26日現在】
4 2012年
(平成24年)
12月07日
三陸沖 7.3 5弱 98
cm
外洋 49
km
正断層 死 1、負 15 住家一部破損 1棟
5 2011年
(平成23年
)03月11日
三陸沖
東北地方
太平洋沖地震
(東日本大震災)
9 9.3m
以上
外洋 24
km
逆断層 死 19,667
不明 2,566
負 6,231
住家全壊 121,783棟
6 2011年
(平成23年)
03月09日
三陸沖 7.3 5弱 55
cm
外洋 8
km
逆断層 負 2 住家一部破損 1棟など
【平成23年3月10日現在】
7 2010年
(平成22年)
02月27日
沖縄本島近海 7.2 5弱 10
cm
外洋 37
km
横ずれ 負 2 住家一部破損 4棟
8 2009年
(平成21年)
08月11日
駿河湾 6.5 6弱 36
cm
駿河湾 23
km
横ずれを含む
逆断層
死 1
負 319
住家半壊 6棟
9 2007年
(平成19年)
07月16日
新潟県上中越沖
新潟県中越沖地震
6.8 6強 32
cm
外洋 17
km
逆断層 死 15
負 2,346
住家全壊 1,331棟
10 2007年
(平成19年)
03月25日
能登半島沖
能登半島地震
6.9 6強 22
cm
外洋
海岸付近
11
km
横ずれを含む
逆断層
死 1
負 356
住家全壊 686棟
11 2005年
(平成17年)
08月16日
宮城県沖 7.2 6弱 12
cm
外洋 42
km
逆断層 負 100 住家全壊 1棟
12 2004年
(平成16年)
11月29日
釧路沖 7.1 5強 12
cm
外洋 48
km
逆断層 負 52 住宅一部破損 4棟など
13 2004年
(平成16年)
09月05日
三重県南東沖
東海道沖
7.4 5弱 101
cm
外洋 44
km
逆断層 負 36 住家一部破損 2棟など
14 2004年
(平成16年)
09月05日
三重県南東沖
紀伊半島沖
7.1 5弱 66
cm
外洋 38
km
逆断層 負 6 水道管破損など
15 2003年
(平成15年)
09月26日
釧路沖(十勝沖)
十勝沖地震
8 6弱 255
cm
外洋 45
km
逆断層 死 1
不明 1
住宅全壊 116棟
16 2000年
(平成12年)
07月30日
三宅島近海 6.5 6弱 14
cm
外洋 17
km
火山活動 死 1
負 15
住家全壊 15棟
17 2000年
(平成12年)
07月15日
新島・神津島近海 6.3 6弱 7
cm
外洋 10
km
火山活動 一部破損 174棟など
18 2000年
(平成12年)
07月01日
新島・神津島近海 6.5 6弱 7
cm
外洋 16
km
火山活動
19 1995年
(平成7年)
01月17日
兵庫県南部地震
(阪神・淡路大震災)
7.3 大阪湾 16
km
横ずれ 死者 6,434
不明 3
20 1993年
(平成5年)
07月12日
北海道南西沖地震 7.8 外洋 35
km
逆断層 死者 202
不明 28
21 1983年
(昭和58年)
05月26日
日本海中部地震 7.7 外洋 14
km
逆断層 死者 104
22 1946年
(昭和21年)
12月21日
南海地震 8 外洋 24
km
逆断層 死・不明 1,443
23 1945年
(昭和20年)
01月13日
三河地震 6.8 三河湾 11
km
逆断層 死者 1,961
24 1944年
(昭和19年)
12月07日
東南海地震 7.9 外洋 40
km
逆断層 死・不明 1,183
25 1933年
(昭和8年)
03月03日
昭和三陸地震 8.1 外洋 0
km
正断層 死・不明 3,064
26 1927年
(昭和2年)
03月07日
北丹後地震 7.3
海岸付近
18
km
横ずれ 死者 2,912
最後に
 以上のように、地震の規模や揺れの大きさが、そのまま津波発生の有無につながらないことは、ご理解頂けたかと思う。では最後に①~④を踏まえて津波が発生する要因を整理すると以下のようになる。
 
 ●震源が海域である。
 ●震源の深さが50km程度より浅い。
 (※震源深さはあくまで目安で、断層上縁の深さの方が津波の有無に影響が大きい点に注意。)
 ●断層のタイプが正断層もしくは逆断層
 ●断層のタイプが逆断層だと特に津波が大きくなる可能性がある。
 
 最後になるが、地震の際に津波の有無について、すぐに確認する行動は防災の観点でも非常に良い行動なのは間違いない。今回のコラムは津波発生の有無についての疑問に答える形で解説を載せたもので、確認行動を否定するものではない。そのため地震が発生した際には、これまで同様に津波の発生について確認を怠らないようにして欲しい。